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2月、バレンタイン ページ13

2月になって、バレンタインデーの日がやってきた。

「チョコあげます」

差し出したチョコ入りの箱に、ヘッケンローゼ先生は僅かに口元を引きつらせる。

「先月話した内容を、もうお忘れですか」
「チョコあげるって用事があります」
「……チッ」

周囲には人が居なくて丁度良いタイミングだった。我ながらタイミングがいいな、となんとなく思う。

彼は憂鬱そうな声で以前言った言葉について指摘したけど、わたしもちゃんと忘れてない。だから、ちゃんと用事を作ったのだ。

「露骨に嫌そうな顔しないでください。傷付きます」
「……失礼」

答えつつ、ヘッケンローゼ先生はわたしの差し出した箱を受け取った。

「舌打ちしましたけど、受け取るんですね」
「……受け取らねば、より失礼でしょう」

仮面のおかげで口元しか見えないけど、何か感情を堪えているような顔に見える。

「別に受け取らなくてもいいんですよ。ただのお世話になってますチョコなんで」
「……ただのお世話になってますチョコなら尚更受け取らないといけないではないですか」

少しだけ本心と違うことを伝えてみた。本当は受け取って欲しかったんだけど。だが彼は箱を返そうとする素振りを一切見せない。

「義務感ですか?」
「………まあ、そうですかね」
「ふぅん。まあいいですよ。さっきはああ言いましたけど受け取ってもらった方が嬉しいし」
「……そうですか」

受け取った箱を彼はすぐに仕舞った。誰かに見られたらまずいとか思っているかのような様子だ。

「あ、お返しとかは無くて大丈夫です。わたしがあげたくてあげただけなので」
「……」

そう告げると、明確にムッとした顔をした。明らかに不機嫌だ。

「私は、そこまでの甲斐性無しのつもりはありませんので」

不思議に思っている合間に、彼はそう言い残し去って行く。……『甲斐性無し』ってどういうことなのかな。

「……なんかすっごい顔してたな」

あの不機嫌そうな顔はわたしに向けてだったのかな? チョコを受け取りたくないならすぐ返せばよかったのに。

「嫌だったら嫌って言えばいいのに」

よく分からない人だなぁと思う。だけど、チョコを受け取ること自体はあんまり嫌がってなかったような気がした。

うーん。チョコを渡した後のわたしの言葉がよくなかったのだろうか。『お返しは不要』とかその辺り?

「まあ受け取ってもらえてよかった」

結構頑張って作ったチョコだったからね。

「……あれ。なんであげたいって思ったんだろ」

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作者名:鬼灯 | 作成日時:2024年4月10日 14時

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