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梅雨が明けた。
まだ6月だけど、蝉が鳴き始めたから…もう夏と言っても差し支えないだろう。
「このまま消えちゃいたい…」
向「なーにを物騒なこと言うてんの!」
リビングのテーブルにほっぺをくっつけてグデグデの私だけど、これは決して夏バテではない。
目の前にヌッと差し出されたのはいつだったかふっかさんと半分こしたあのアイス。今日はホワイトサワー味。
「ありがと…」
向「ん」
それをくれた張本人はもう既に片割れを咥えていた。
冷たくてシャリシャリのアイスがオーバーヒート中の頭に染みる。
みんなお仕事とか学校で家を空けていた平日の午前中。
私はお休みで、蓮くんは寝てる。
いつもひっつき虫なツナも、ここ最近は暑さのせいでよそよそしい。えーん寂しい。
「康二くんも今日カフェお休みなんだね…」
向「せやでー定休日ちゃうねんけどな、明日から連勤やから休んどきーって。」
あれは俺をコキ使うつもりやで…って不満そう。
でも看板店員だから仕方ないよ。
SNSでイケメンバリスタのシフトが噂されてるの、知ってるのかな。
向「んでー?なんでAちゃんはそんなショゲてんの?」
ソファに座った康二くんはお兄ちゃんの顔をしている。
普段はどちらかと言うと、甘えんぼな弟ポジションなのに。
私の前ではいつも優しいお兄さんになってくれるのだ。
「だってあんなの…好きにならない方が無理だもん…」
私を悩ませるのは、夏の暑さでも、ツナがよそよそしいことでもない。
ずっと心の中に棲みつく彼のことだった。
向「…よっしゃ!ちょっと気分転換に出掛けよ!」
「へ?」
向「熱中症対策しっかりしーや!太陽浴びに行くで!」
そう言ってバタバタと階段を駆け上がる康二くん。
あ!って上から顔を出したかと思ったら、カメラ持っておいでや!って言い残して自分の部屋に消えてった。
「カメラ…?」
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言われた通り、涼しいコットンのワンピースに淡い色のデニムを履いて、ギンガムチェックのリボンが可愛い麦わら帽子を被った。
首にはカメラをさげて。
向「お、ええやん!可愛い」
「…それ、やだ。」
向「えー?褒めたのに?」
ここの人達はみんなすぐ「可愛い」って言うけど、それは動物や小さい子どもにいうのとおんなじ感じ。
さっくんも例に漏れず褒めてくれるけど、「可愛い」を言われる度に、全然意識されてないんだなって思い知っちゃうのが苦しいのだ。
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作者名:あむ | 作成日時:2024年4月5日 23時