ガラスの靴を振りかざして7_緑 (ページ5)

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さっきまでの態度がどんなものであろうと、こうして阿部さんが気持ちを切り替えて接してくれているのだから、ここは私も大人として気持ちを切り替えなければと思う。

私たちの仲だ。
どこかのタイミングで聞けるなら「なんで怒ってたの？」と聞けばいいし、もし聞けなかったとしても、阿部さんの態度が変わらない限りは気にすることではない。
気にしちゃダメだ。

阿部さんに怒られること
嫌われること
そっちの方が、よっぽど私には堪えるから。

「では当時の状況を教えていただけますか」

警察官の言葉に、全員の視線が私に集中する。
うっ、と怖気付きそうになる気持ちを、背中に添えられた阿部さんの手のひらが受け止めて押し戻してくれる。
踏みとどまって一礼し、それからゆっくりと深呼吸をした。

車内で阿部さんに宣言した通り、私は出来るだけ客観的に、起こった出来事をありのまま話した。
途中で何度か警察の質問と確認が入ったものの、話した時間は十五分にも満たなかったと思う。

意外と早く、そしてスムーズに終わったのは阿部さんが言っていた通り、現場付近に防犯カメラがついていたから。
私たちが来るまでに警察はカメラの映像をチェックしていたようで、私の話は事実確認という形でまとめられた。

病院からの診断書を警察側に渡す際、私はこの件をこれ以上大ごとにはしたくないことや、加害者である彼女に対して厳重な処罰を望んでいないことをはっきりと伝えた。

田ノ上さんは私の横で何か言いたそうにしていたけど、最終的には「Aちゃんがそれでいいなら」という雰囲気だったし、テレビ局側の人たちは訴えたくないという私の申し出に対して分かりやすいくらい安堵していたから、おそらくこのまま「大人の事情」を優先させて要望は通るだろう。

その話をしている最中、阿部さんの顔は見れなかった。

でも背中に添えられた手が離れることはなかったから、たぶん…きっと、彼も私の気持ちを汲んでくれたのだと信じたい。

最終的に今後の判断については、加害者である彼女と加害者が雇うであろう弁護士、テレビ局とこちらの会社、そして警察に任せることで決着がついた。

一旦楽屋に戻るように促された私たちは、同席していた番組スタッフさん先導のもと楽屋へと向かうことになった。

案内しますので少しお待ちくださいと言われ、警察の邪魔にならないように扉付近の壁に背中くっつけ、阿部さん、私、田ノ上さんと三人並んで待機した。