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「Aちゃん…俺がもっと自分の直感信じて行動すればよかったって思ってる。本当にごめんね」
待ちながら、田ノ上さんは今日何度目になるか分からない謝罪を口にした。
私も負けじと「田ノ上さんが謝る意味がわかんないっすよ」と訴えているのに、彼も阿部さんに似て頑固なので、これがなかなか聞き入れてはもらえない。
普段からお世話になっている人に謝られ続けるのは、単純に心が痛む。
お互いに譲らず、会話は平行線だ。
なーんて思っていたら、隣で大人しく話を聞いていた阿部さんまで「俺も油断してた。守ってあげられなくてごめん」なんて田ノ上さん側に加勢してきたもんだから、過保護で話の通じない両隣に大きなため息を吐かずにはいられない。
そういえば、今住んでいるマンションに引っ越すかどうか決めかねていた時も、2人が結託していたのを思い出した。
楽屋まで案内してくれるはずのスタッフさんはすぐ近くにいるものの、さっきから難しい顔をしながらケータイで誰かと話していて、もうしばらくかかりそうだ。
「ねぇAちゃん」
「今度はなんですか」
「これは俺からの個人的な提案なんだけどさぁ…抜糸まで一週間って言ってたよね?」
「……そうっすね」
「それまで仕事休んでもいいよ」
「え、嫌です」
何言ってんだ、とすぐさま首を振って真顔で拒絶すれば、田ノ上さんは「だよねぇ〜言うと思った」と言いながら、困ったように笑った。
当たり前じゃないか。
そもそも人手不足を理由にこの仕事を始めたのに、我々マネージャー陣のスケジュールにそんな余裕などあるはずがない。
田ノ上さん、ぞのっち、トム、お鶴さん、いとぅーさんと、それから私。
この6人で「日本で一番売れているアイドル」であるメンバー9人の個人仕事やグループ仕事を綿密なパズルのように割り振って、ようやく一週間に一日オフの日ができるかできないかという状況なのだ。
私でなくても誰かが半日休めば、もれなく全員キャパオーバーだというのに。
というか仕事大好き人間の私から仕事を取り上げたら何が残る。
自分がダメになるだけだ。
そんな私の性格を、田ノ上さんだって分かってるくせに。
「でもさ、とりあえず今日と明日は休みにさせて。じゃないと俺がみんなに怒られちゃう」
「うっ……わ、かりました」
それでもやや不服だが、ケータイをふりふりとさせながら眉を下げる田ノ上さんにこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかないので、まあ明日だけならと条件を受け入れた。
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作者名:泥濘 | 作成日時:2024年4月16日 12時